慶應義塾大学の「地域診断合同実習」に群馬大学医学科学生が参加しました。
本実習は慶應義塾大学において2022年度より開始され、毎夏に実施されているものです。医学部、看護学部、薬学部、地域政策学部等の学生を対象とした合同地域診断実習であり、地域診断を通じて「地域をみる視点」や「多職種連携能力(IPW:Interprofessional Work)」を養うことを目的としています。
過去に群馬県をフィールドとした実習では群馬大学の学生も一部参加しておりましたが、本年度より本格的に両大学の合同実習として開催されることとなりました。群馬大学からは2名の学生が参加し、企画段階から学生が主体となり実習を行いました。
実習概要
今年度は利根中央病院総合診療科の協力のもと、観光で大きな成功を収める群馬県川場村およびその周辺地域(片品村等)を対象に実施いたしました。
目的:外の力(人・お金)をどのように巻き込み、『そこに住む人々の幸せや暮らし(健康)』を持続させているのかを明らかにすること。
実施期間:2026年8月18日 ~ 8月28日
対象地域:群馬県川場村・片品村ほか
協力機関:利根中央病院 総合診療科 ほか
主な訪問先とフィールドワーク
学生たちは医療機関のみならず、産業、教育、行政、地域コミュニティなど、地域を構成する多様な現場を訪問し、多角的な視点から地域の構造や課題について調査・考察を行いました。
医療・保健機関
利根中央病院:地域の中核病院としての役割や、災害時対応(床暖房設備・採光設計)、似顔絵を用いた心のケアなど心理面に配慮した取り組みを視察。
川場診療所:地域住民に身近な医療機関として、日常的な健康問題に対応しながら生活を継続的に支える地域医療の役割を学習。
群馬パース病院:「口から食べる」ことを最優先に掲げたQOL向上と予防医療への介入を視察。
行政・教育
川場村役場:村長との対談等を通じ、顔の見える距離感での行政サービスや今後の地域づくりのあり方を議論。
川場学園:教育の場が子どもたちへの教育にとどまらず、地域とのつながりを育み次世代の担い手を育てる役割を持つことを実感。
産業・地域文化・交流
一般社団法人WASAWASA:世田谷区との縁組協定を通じた都市と農村のwin-winな関係性や、対等に汗を流し合うコミュニティ形成を深掘り。
道の駅「田園プラザ川場」:地元農家による直売システムが及ぼす高齢者の収入・健康維持効果と構造的課題について考察。
土田酒造:伝統の「生酛(きもと)造り」を通じた差別化戦略や、地域産業が雇用・文化・地域の魅力発信に果たす役割を視察。
青龍山 吉祥寺 / 川場村歴史民俗資料館:地域交流の場としての寺院のあり方や、地域文化保存の現状と課題を共有。
片品村 iikarakan(いいからかん)/ 川場フィッシングプラザ:自然資源を生かした観光・交流や、移住者・地域住民との対話を通じた生の暮らしと人々のつながりを体験。
地域診断実習を通して得た主な学び
実習期間中の多学部協働やフィールドワークを通じ、学生たちは主に以下の3つの視点から深い気づきを得ました。
1. 多学部協働・教職員からの学び(視点の交差)
医学生が疾患や臨床データに視野を限定しがちなのに対し、総合政策学部の学生は地域政策・社会構造の視点から、薬学部の教員からは経済学的な視点を取り入れた薬局配置や健康寿命延伸の捉え方など、異なる専門性の視点を共有しました。医療は「日常の暮らし」の一部であり、個々の専門性を尊重しながら多様な視点で患者や地域を理解することが、より良い医療や多職種連携につながると学びました。
2. 地域に関する学び(暮らしのリアルと共同体としての理解)
観光で成功を収める一方、隣接市への生活・医療依存や交通インフラ、人口減少といった地方の課題が存在します。しかし川場村等では、伝統的な「五軒組」に根ざす互助や、役場・医療機関・教育・産業・住民同士の緊密な連携によって健康と暮らしが補完されていました。地域診断においては医療資源だけでなく、地域をひとつの「共同体」として捉える重要性を実感しました。
3. リーダーシップと対等な人間関係の構築
「調査者」として外から関わるのではなく、実際に畑で作業を共にし、同じ食卓を囲む等身大の人間として地域に身を置くことで初めて住民との信頼関係が生まれます。また、多学部のチームで一つの目標に向かって協働する中で、お互いの強みを引き出し合い、対等な目線で意見を整理・推進していく実践的なコミュニケーションとリーダーシップを学びました。
参加学生の声
今回の地域診断実習では、川場村を中心に、医療・教育・産業・文化などさまざまな視点から地域について学ぶことができました。
実際に地域で暮らす方々や、医療・教育・行政などに携わる方々のお話を伺うことで、地域の課題だけでなく、人と人とのつながりや地域ならではの魅力を実感しました。また、慶應義塾大学の学生とともに地域を歩き、それぞれの視点から意見を交わしたことで、自分一人では気づかなかった新たな発見も多くありました。
今回の実習を通して、医療を考えるうえでは、病気だけを見るのではなく、その人が暮らす地域や生活背景まで知ることが大切だと改めて感じました。貴重な学びの機会をいただいた地域の皆さま、関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。
おわりに
川場村および周辺地域の医療、福祉、教育、産業、行政が交差する現場を直接捉えた経験は、将来多職種と協働しながら地域に根ざした医療・社会貢献を実践する上で非常に貴重な糧となりました。
真摯に調査や対話に向き合ってくださった地域の皆さま、ならびに関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。今後も大学や学部の垣根を超えた連携を一層深め、地域社会に貢献できる人材育成に取り組んでまいります。